NHKオンデマンド最後の視聴に選んだのは「夢千代日記」(1981年)です。
夢千代日記は「続夢千代日記」「新夢千代日記」と第3弾まで続きましたが、U-NEXTで視聴できるのは第1弾の「夢千代日記」のみ。
もう大好きなドラマです。
(NHKオンデマンドより)
舞台は兵庫県の湯村温泉。現在の新温泉町です。
山陰と山陽が「裏日本」「表日本」と呼ばれてたころの物語。
オープニングの余部鉄橋に惹かれて、1人で山陰線の旅に出たこともありました。
湯村温泉にも降り立った。
今もうあの赤い鉄橋がないなんて信じられません。
香美町のメッセージ。切なくも力強い。
(香美町HPより)
赤い橋梁が一部保存されてるのですね。
余部クリスタルタワーなるものまであるとは…!→「余部鉄橋」兵庫県HPより
暗い…この物語はとても暗いですよ…
だけど暗い物語ってとても救いになるものです。
また吉永小百合さんが美しい…!当時36歳。
(NHKアーカイブスより)
改めて見返してみて、いや、魚座物語だわ…と思ったのです。
吉永小百合さんが魚座ですが、全体的なムードが魚座です。
舞台は、吉永さん演じる夢千代が女将を務める置屋「はる家」。
その夢千代が山陰線で表日本から帰ってくるところから物語は始まります。
列車内で出会ったのが林隆三さん演じる刑事・山根。
山根の目的は、かつてはる家の芸者だった市駒。
市駒が川崎で恋人を殺害した容疑。
林隆三さんがまた男前。当時38歳。
(NHKオンデマンドより)
市駒はきっとはる家に逃げてくるだろうと読んだ山根刑事。
その予感は当たり、しょっちゅうはる家に市駒から電話がかかってくるのですが、夢千代は市駒を守るんですよね。「こっちに帰ってきちゃだめ!逃げなさい…」と。
犯人隠匿罪にもなりそうな夢千代の動きに山根は目を光らせるわけですが、夢千代は最後まで一度も市駒を責めなかった。
なんなら財布を握らせて、「なんとか逃げてほしい」と。
罪人側に立つところに魚座的なものを感じたわけですが、この物語は全般マイノリティーの話なのです。
裏日本・芸者・犯罪・病気・自殺願望・自殺未遂・不倫・ストリップ・ヤクザ・水子・捨て子・失踪。マイノリティーのカオス…。
そして夢千代は原爆症を患っています。
母親が広島で被爆した時におなかにいた胎内被爆者。
表日本から帰ってきたのは、定期的に神戸の病院に行ってるから。
旅館で舞っていても貧血で倒れてしまいます。
またはる家は、問題のある芸者ばかり受け入れるところとして町でも有名。
秋吉久美子さん演じる金魚にはアコちゃんという小学生の子どもがいますが、自分の子ではない。
あとでニセ医者と判明する木原(ケーシー高峰さん)の診療所から譲り受けた子。
この木原診療所では違法の捨て子斡旋を繰り返しています。
秋吉久美子さんがまた美しいのです。
アコちゃんを「あ・こ」と呼ぶ時の口元のほわほわした感じがたまりません。
また暗い表情がよく似合う。
金魚さんは6年前に自殺未遂をしてます。
好きな男と結婚することが叶わず、おなかに子どもを宿したまま余部鉄橋から飛び降りを図ろうとした。
そのとき、同じことを考えてた男と知り合い、一緒にどこで死にましょうかね、海ですかね…ということになる。
えっ、岡村ちゃん??いや、若かりしころの北村総一朗さんです。
しかし男だけが死んで、身も心もぼろぼろの金魚さんは近くのはる家で芸者として働くことに。
そして木原診療所で高校生から産まれたばかりのアコちゃんを自分の子にすることで、なんとか生きてきた。
のちの小夢ちゃんとなる中村久美さんは足が悪く、これまた木原診療所から「この子を芸者としてここに住まわせてやって」とお願いされる夢千代。
木原はニセ医者ですが、町の人にとっては救いの存在なのですよね。
どんな仕事にもつけない子のために奔走したりもする。最後、千代春という芸者と失踪。
千代春さんは末期の子宮がんで、将来を悲観して一生眠れる薬を木原からもらったりもします。
また、雀という芸者は若い旅芸人と東京へ無断で飛び立つ。はる家は崩壊寸前です…
しかし、これまたコミカルのすべてを引き取るのが樹木希林さん演じる菊奴。
当たり前だけど本当うまいですよね〜。
旅芸人と表日本へ行きたい!と一番強く願ってるのが菊奴。
この裏日本…というかはる家の女性は、「表日本へ連れてってくれる男を見つける」ことに夢を描くのです。
そんな芸者が過去何人もいましたが、聞こえてくる噂は不幸物語ばかり。
それでも表日本に明るい何かあるはず。裏日本とは違う太陽のもとなら、自分の人生もやっと明るくなるんじゃないか…。
寂しい寂しいこの町の女たちは、日本海の激しい海鳴りにもうんざりしてるのです。
みんなが集まる喫茶店は「白兎」。
ストリップ小屋が併設されてて、緑魔子さんとあがた森魚さんがカップルで働いてるんですよねぇ。
なんなんでしょう、この配役。奇跡すぎる…
なんたって藤森警部役の中条静夫さんです。
厳しい顔つきだけど、基本は町の人の味方。
はる家のこたつでいつもみかんとか食べてますが、夢千代さんがまた聞かれたこと包み隠さず話すのです。
そういうときの藤森警部はジャッジなどしません。くつろいじゃってる。
境目のない感じも魚座世界ですが、なのに誰しもに触れちゃいけない過去があることを知ってる、そこはそっとしておく繊細さ。
日頃、魚座は薄い薄いと言ってる私ですが、確かに魚座は日々の平穏さの中にあって存在は薄め。
しかしひとたび不穏な事件が町に起きてこそ輝きを放つのです。
みんなが忌み嫌うものを受け入れる優しさというか、やっぱり薄いからこそ濃淡の境目をぼやかせる人なのかな。
吉永小百合さんだけじゃなく、裏日本は魚座ランドなのかもしれない。
死と優しさのにおいがする夢千代日記の中の裏日本。
恋人を殺した市駒は、夢千代に「預かってほしい」と母親の仏壇を託す。
市駒を責めることのなかった夢千代はただ一度だけ、「それはできない」と拒否するんですよね。
「お仏壇預かったら、あんた死ぬでしょ…」(→市駒号泣)
・・魚座的察知能力としか言いようがない。
余命3年の夢千代、生と死の境目に足を踏み入れてるのかもしれません。
その市駒はなぜ恋人を殺したかというと、男は表日本に行った途端に働かなくなり、市駒に「トルコに行け」と殴る日々。「うちを売り飛ばそうとしたのが許せない!」と首を絞めた後もずっと、「うちはやっぱり、おとなしくトルコに行っといたほうがよかったんですよね?そうしてればよかったんですよね?」の自問自答。夢千代と市駒、号泣…。(トルコって風俗です。あ、知ってる?)
実はこの一部始終を刑事・山根が聞いていて、驚愕と絶望の夢千代。
でも山根は自分の身を隠して逮捕しなかったのです。夢千代も山根に市駒を差し出さなかった。
自分の足で出頭する市駒に付き添った夢千代です。
夢千代たちの主な舞台「煙草屋旅館」の女将、加藤治子さんも素敵です。
今の2階建ての旅館を10階建てのホテルにしようと息子に持ちかけられるも、「今の2階のままでええ」と頑なに拒む。
「潰れるだけだよ」と言われても、「潰されるこっちが悪いんじゃなぁて、潰す方が間違ってるだ…」
・・んだんだ、このスピリットを大事にしたいものです…。
置屋の人間関係も一致団結してるようでどこか人それぞれ。
親身になるけど干渉しません。
また「仲間」とか言わないんですよ。「道連れ」と言う…
「私たちは道連れです…」
しびれるほどに暗いのです。
医師の木原と末期がんの千代春が大量の睡眠薬持って失踪したのはそりゃショックだけど、「千代春さんにお医者さんの道連れができて、よかったと思います…」と、夢千代は言う。
裁く人が誰もいないドラマです。
そこがサスペンスドラマと違うのでしょうね。
山根ですら最後に刑事を辞めてしまう。
胃潰瘍で入院中に裏日本の人間模様を見てきて、子ども斡旋、医師法違反、そりゃいくらでも検挙できる。
でも、表日本の自分が正義を振りかざして「逮捕だ!」と分け入っても、誰1人幸せにならないよな、…と。
ちょっと「万引き家族」に通じる何かもあります。
最後はあの映画も激しくジャッジされましたけどね。
それに今じゃコメント欄で「犯罪ダメじゃんw」とかの一刀両断コメントにまみれるという…。
魚座って平和な世界じゃ自分を持て余しちゃうのだと思う。
救いようのない状況でこそ魚座は輝くのです。
かねがね「死」に近い存在とは思ってますが、誰もこちら側に引っ張る権利などありません。
むしろその境目の番人かも。
境目に夢千代がいたなら、多くの人が安心して向こうへ行けます。
そんな物語なんですよねー…
NHKオンデマンドで30秒ずつ視聴可能です。
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初めまして
夢千代日記、大好きなドラマでした。あの頃は子供でしたが、ジワジワと歳を重ねる事に登場人物の一人一人の気持ちが痛いほど理解できます。文章を拝見して細かい所まですごく良く分かります。秋吉さんのホワホワしたアコって言うあの言い方!本当その通りですよね!
まーこさん
コメントありがとうございます!
夢千代日記の世界観を分かち合える人がいて嬉しい限りです。
歳を重ねるごとにわかる部分、すごくありますよね。
だから何度見ても沁みるのかもしれません。
秋吉さんのアコ、わかりますか!
色気があふれてましたよね〜。