年末にNHKで放送されていました。
山田太一さん追悼の再放送。
もっと他のドラマも流してほしい…!
(NHKアーカイブスより)
肝臓を患って余命いくばくもない息子(杉浦直樹)と、その息子を見舞う父(笠智衆)の物語。
その父の妻=息子の母(杉村春子)は、とうの昔に男を作って出ていって、今は1人で飲食店を切り盛りしている。
息子の妻(倍賞美津子)はブティック経営で忙しい中でも見舞いに通ったり、義父に息子の余命を知らせるものの、妻としての心は離れていた(新しい恋人のために離婚を検討中)
夫婦には長男と長女がいるが、仕事や遠方でのバイトのために各々忙しそう(父の余命は伝えてない)
杉村さん演じる母がひょんなことから息子の余命を知って駆けつけるも、どんな顔して病室に入ったらいいのやら…(息子本人も余命は告げられてない)
お店を手伝ってくれる子(樹木希林)に背中を押されながら顔を見せるとこから、離れ離れの家族が徐々につながりを取り戻していくのです。
いや〜泣けた・・
笠智衆さんがなんたって切なげなんだけど、泣くようなストーリーじゃなさそうだったのに。
何に泣けたかというと、これまた山田太一作品の真骨頂ともいえる「はみ出す」ほうへと舵を切り始めたところ。
正しくなくたっていいじゃない。
いのち輝かせよう。
そんないざないが、いつも物語の中にあるんですよね。
しかも「何も、誰かにわざと迷惑かけようってんじゃない」と、律儀に誰かにセリフ言わせたりするのが、山田先生の品の良さです。
疎遠だった家族が急に見舞いに訪ねてくる。
出ていった母親、離婚の話が出ていた妻、蓼科でひっそり暮らす父親。
いきなりの慌ただしさに自分の命の短さを察した息子。
それなのに皆、「じきに良くなると先生もおっしゃってる」と判をついたように言う。
おかしいじゃないか。
この病人役の杉浦直樹さんがすさまじかったです。
目だけが生きているという感じ。
メイクで顔色や髪を乱してるんだとしても、生への執着をみなぎらせてて、ものすごい演技でした。
杉浦さんが取り乱しながら父親に、「自分の本当の病状を教えてほしい」とすがるようになり、ただ穏やかに「大丈夫」とだけ言ってきた父親は、「蓼科に来んか」と誘う。
しかも「これから行こう」「病院を抜け出そう」
そこで杉浦さんの目がパッと輝き、「生」への前向きさがにわかに取り戻された。
「抜け出す」ことに子どもみたいなワクワクをあふれさせて、親子2人で大笑い。
しかも、それを父親が提案したということ。
穏やかで優しい実直なあの父が。
この笠智衆の決断に、杉村春子が大激怒。
この杉村さんの演技がまたすごかったですね。
おもしろい!
80代くらいと思うけど、ネガティブなセリフが淀みなく出てくるところ。
「やんなっちゃう」とか言いながらもあのころの女性のしなやかな仕草に惚れ惚れでした。
元夫に偶然会っただけで猛烈に拒否されたりする。
自分を連れ出した男はとうに亡くなってて今は1人。
なのに、今でも笠さんから怒りをぶつけられ、あたしだって必死なんだからと訴えても手応えなし。
幼い頃は母親として息子に寄り添ってたんだから、またあの頃のようにそばにいてやりたい。
そしたら早朝に病院から電話で「息子さんが病院を抜け出した」と!
怒り狂った杉村さんは「なんとしても息子を取り戻す!」と、病人を寝たまま運べる大型車をレンタルして、それを樹木希林に蓼科まで運転させるも、また樹木さんが憮然としてるんですよね(笑)
しかも、「奥さんの都合で病人をあっちこっち移動させるなんて、人としてやっちゃいけない」とか説教。
山田作品にはまたこういう、笑えるんだけど真理をついてくる人が必ず出てきますよね。
倍賞美津子さんがまた美しかった。
40代頃の倍賞さんをお目にかけるのはすごく貴重な気がする。
しかも本当にブティック経営してそうな華やかさ。
この作品のすごいというかおもしろいところは、なぜ夫婦の心が離れてしまったのかなんとなく想像できるところ。
笠さんも杉浦さんも、「これじゃあね(女は愛想尽かしそう)」と感じられるところがうっすらある。
笠さんはたぶん、杉村さんがどんだけ尽くしても「ああ」とか「うん」しか言わなさそう。
杉浦さんはたぶん真面目一徹。
家族思いかもしれないけど、一人一人を見てなかったんじゃないか。
あのころの時代がかった男の生き方に寄り添うのはうんざりと、女は背を向け自立に向かう。
ところが、蓼科にみんな集まるんですよね。
みんなで高原に行ったり、花火をしたりする。
心がバラバラになった家族の再生物語とも言えます。
もう一つの涙ポイントは、死が間近に迫った息子がうっかりと父の恋慕をバラすとこ。
「忘れられないの〜(忘れられないの…)」という歌をふいに口ずさんだのは、母親に去られた父があの頃よく歌っていたから。
やめろやめろ…!と気色ばむ父だけど、なんとなくみんなでその歌を口ずさむ。
恋は・・私の恋は・・
空を染めて・・燃えたよ・・・
みんなで歌うシーンは早春スケッチブックっぽい。
(後ろの樹木さんも熱唱)
恋愛シーンを殊更描かなくても、こんな歌唱だけで誰にも胸えぐられるほどの恋慕があったことが感じられる。
素晴らしいホンを素晴らしい役者さんが演じてくれることを目にするというのは、本当に幸せなことです。
老人と中年が主役の素晴らしいドラマでした。