「時代屋の女房」
午後、BSで放送してました。
ずっしりきた。
何がずっしりかはわからないけど、「いい一日を過ごせた」って思えた。
そして多分、この先もずっと記憶に残るシーンのあれこれ。
初めてこの映画を見たのはTVで、たぶん小学校高学年。
「時代屋」といえばこの2つのシーンがばちっと記憶に焼き付いてる。
涙壺を目元に当てる夏目雅子さんの美しさと、渡瀬恒彦さんと古い椅子でのキスシーン。
椅子がばりばり壊れてもキスをやめない二人。
あの頃何を感じていたか忘れたけど、そんなに性の気持ちで占められてないはず。
こんなおじさんが(当時渡瀬さん39歳)美女とすぐこんななって、不幸になればいいとか、案外思ってたかもしれない。
物語が始まって5分もしないうちにこの展開!
それにしても、ベッドシーンがこのアングルからとは珍しい。
安さん(やっさん)が集めてきた古道具が強調されてるのかな。
これから二人で生活することになる部屋。
私にとって邦画といえば、TVではあらわにならない女性の裸体や卑猥な言葉のやり取り、そこをすり抜けたりぶつかったりする男と女にはみんな故郷や幼い時代があって、都会で器用に生きてるようでいて、愛だけはうまくいかない物語。
津川雅彦さんが都会代表みたいな生き様で、「いろんな女の尻追っかけてきた」と話すとおり、女とくりゃいつも「そういう目」で見たり、若いカップルの間にサラッと入っていく。
そんな津川さん(喫茶店マスター)から、「真弓ちゃんのおっぱいの下のほくろがさ…」って言われて、あぁ、真弓(夏目さん)はやっぱりそういう女…って心が重くなる渡瀬やっさん。
すぐ失踪する真弓にやきもきしながらも、「都会の男女は過去のことなど聞かない」流儀のもと、マスターが見たほくろにも触れずにいたけれど。
実は公園で真弓の逆立ちを手伝ってたときに見えちゃったほくろとのことで。
なんなんだ、都会の男女とは!!
いなくなった真弓は、銭湯の前でやっさんを待っていた。
都会の人間っぽく生きていても、のれんの前で待ち伏せていたりする。
昭和の映画の、貴重なシーンと思う。
このあと「ふふっ…」って、やっさんの背中にはりつく真弓。
部屋に帰ったらあのベッドで抱き合って、なぜか涙を流す。
涙ってバカみたい
耳に流れて、胸に戻っていくの
信じられない早さで抱き合って始まった二人は、涙のワケすら聞かない。
そうであればこそかっこよくて、そうだからこそ燃え上がる。
でもそれが望みの関係かはわからない。
ワケわからないけどおもしろいっていうのも、昭和の映画だったかな。
突然現れた椿鬼奴風の女性。東北なまり。
夏目雅子さん一人二役です(こっちは美郷)
この恥じらいが、都会の女とは違うという強調?
ベッドに滑り込んだのに、震えてくるような。
それはたぶん、初めての相手だから。
真弓とは何もかも違う。
やっさんも本当は、自分の情の濃さを持て余してたみたい。
この美郷になら、こみ上げる情をぶつけたって満たされる気がしたかな。
でもねぇぇぇ。
真弓こそが情の深い女だったことを知ったやっさん。
もう不安に揺れることなどないでしょうね。そんなまなざし。
大井町の歩道橋をやっぱり渡って帰ってきた。
南部鉄瓶は、骨董屋の古くて新しい顔かな。
「帰ってきたみたいよ…」
かすれ声で教えてくれたのが、猫のアブさん。
原作者、村松友視さんの愛猫がモデルかな。
渡瀬さんもむちゃくちゃかっこよかったです。
「かっこいい」というのは時代で変わってしまうかな。
「情」とか「ちゃんと知る」ってことがこんなにもかっこいい。
傷ついたり、「待つ」ってことも、留守電で真弓の声を何度も聞いたりする未練は、渡瀬さんが演じるから素敵、、かもしれないけど。
「愛」があったな、このとき。ってなんとなく思った。
ほうぼうにあった。
昭和をことさら良く・懐かしく思い返すのは、悪いくせになってしまうかな。