「岸辺のアルバム」

山田太一さんが亡くなられましたね。

私にとって山田太一といえば「ふぞろいの林檎たち」であり「早春スケッチブック」
その他手がけられた多くの2時間ドラマを堪能してきました。

死去の一報後、U-NEXTで「岸辺のアルバム」を見つけたので今見ています。
まだ6話(全15話)

TBSチャンネルより)

ずいぶん昔の再放送時にも相当衝撃を受けた問題作。
改めて見返すと結構忘れていて、まったく新しい感慨が湧き起こりました。

このときの八千草薫さん、46歳だったんですね。
今の自分と年が近く、その年の女優を主役にしたことと八千草さんの美しさにまず感動。
1977年の作品ですが、「専業主婦」というあり方に大きな疑問を投げかけた山田太一の視点がとにかく鋭いのです。
また、山田作品といえば「学歴社会への警鐘」「人間性を見てますか?」というあたりの一貫性は、令和になってもなお視聴側をびんびんと刺激する。

八千草さんの夫役である杉浦直樹さんのハラスメント性がまたすごい!
久々に全員がそろった食卓ですぐ喧嘩になる家族の息苦しさよ!

このドラマは「専業主婦の浮気」「それを八千草さんが演じること」がショッキング要素としてまずありますが、家族全員が抱える鬱屈はどれもショッキングです。
その鬱屈がある日、全員分露出してしまう。
それは「相手との出会い」としてある日、自分の前に現れる。

その鬱屈と相手とは・・・
報われない専業主婦・八千草薫
・「個性を押し込める自分」が出会ったのは電話の男(竹脇無我)
 →「あなたをずっと見ていた・ただ雑談がしたかった」→自由に羽ばたくこと&性へのいざない

保守的な父/夫/部長・杉浦直樹
・「保守を死守する自分」が出会ったのは部下(村野武範)の躍進&事務員(沢田雅美)の告白
 →革新への危機感と嫌悪&性へのいざない

翻訳を学ぶ大学生/娘・中田喜子
・「特別でありたいのに現在と未来に絶望する自分」が出会ったのは経験豊富な帰国子女(山口いづみ)
 →特別な性体験へのいざない。

受験中の息子・国広富之
・「受験に息苦しさを感じる自分」が出会ったのは積極的なバイト女子(風吹ジュン)
 →性へのいざない

全員に「性へのいざない」がつきまとってるわけですが、これが一気に描かれる!
その性とは「自由」「外の世界」を意味しているように見える。

私は杉浦さん演じる父親の鬱屈にすごく揺さぶられました。
今まで社のために必死で守ってきた「保守」の主義も、儲け時代の今じゃ誰も死守してる人間などいなかった。
それを突きつけられたときのショック。
部下が提案した「武器使用」の路線は、杉浦さんの抵抗を超えてあっさり上に歓迎される。
誰もがあの敗戦や身内の死亡を胸に刻んでいると思っていたのに、そのための死守も「古い」という一言で片付けられてしまう。
そして社の色は儲け主義へと鮮やかに変わる。

昭和の父親がみなこういう葛藤の中で働いてたわけじゃないだろうけど、飲んで帰ってきて、尽くす妻をも無碍にして、一人抱える頑固親父の哀愁がわかる気がした。
「お前は気楽なもんだ」と妻に吐き捨てる夫はそりゃ最低だけど、あの時代のこんな転換は、あのころのドラマに特徴的な重厚感をもたらしていたと思う。

しかし、その部長の葛藤をずっと見てたのが沢田雅美と!
この家族はみんな外部の誰かから「あなたをずっと見ていた」と求められて、たちまち落ちちゃうんですよね。
このころから「選ばれ」の魅力と誘惑が描かれている。
思えば「ふぞろいの林檎たち」も、四流大学生の「選ばれ」の話だった。
「こんな自分でいいの?」と問えば、「君だからいいんだ」と一流企業の重役に言われたりする。
だけど山田作品というのは、この選ばれのあとにだいたい落とし穴を描きますよね。
その誘惑もたぶん自分が引き寄せた。
巻き込まれという最大の危機を乗り越えてこそ人生、それは脱皮みたいなものなんでしょうか。

それを分かりやすく「裸」や「外部の人間との接触」として性的に描かれるんですよね。
雑談をくだらないと切り捨てる夫は、妻が家をピカピカに磨いてることを知らない。
知ってたとしても自分の仕事より下とみなす。
そんなときに「あなたとただ雑談をしたい」という男が現れ、電話だけのつもりが「会いましょう」となって、雑談だけのつもりがラブホテルでの逢瀬になる。
最初は胸がはずんで、そのあとどうなっていくか、それは7話以降!

今の自分の鬱屈は何に投影されてるかなと考えた。
少し前は、「怒らない自分になれた」←わけないだろうと本性を暴いてくるモンスター(身内)
今は…
こういうのって、うんざりするほどの何かに巻き込まれて無様な本性が引き出されないと気づかない。
「岸辺のアルバム」の家族も繕ってあがきまくって、結果、多摩川に家をさらわれてしまうという壮大な悲劇。
何が壊れて何が残るんだっけ。続きを見るのが楽しみ。

ジャニス・イアンの主題歌がまた素敵です。

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