「高校教師」~最終話~

ふとしたきっかけで、気持ちがぽっきり折れることがある。

誰かの何気ない言葉や視線で、「あーっ私ってホントに幼かったんだ…」と目の前真っ暗になったり、「私は一体どこへ行く?」と、少し先の自分像すら描けなくなったりとか。

「自分はこれでいい」と、でーんと構えていられたゆったり感が、何かのきっかけで一気に反転して、ゆったり期の自分を「バカだバカだ…」と恥じたくなったりとか。

もう堕ちそう…。

けど、明るい世の中は堕ちることなど許してくれない。

「正しい心の持ち方マニュアル」は世の中にあふれているけど、それは「堕ち感」とか「ネガティブ」はよくないという前提のものばかりだから、そのムードに乗り切れないことでますます疲れていく。

20代半ばの堕ちムードに寄り添ってくれたのは、車谷長吉さんの本でした。

「25歳OL」って輝かしい響きなのに、通勤時の片手には暗い暗い小説。
太宰治よりさらに堕ち感を味わわせてくれる車谷さんの本は、本当に救いになるものでした。

そして今の自分が求めるもの…。

「高校教師・最終話」!!

なんとなく見るタイミングがつかめなかったのは、心が「いんや、まだまだ…」と堕ちGOサインを出さなかったからなのだろうか。

最終回、ぐっときたポイントが4つ。

・「こうあるべきだ」の塊の新庄先生が越えた境界。
・真田さんの優しい目。イエス様のような。
・繭の涙ながらの訴え。
・繭の怒りの表情。

繭の父親、二宮耕介に工具(ノミ?)を突き刺した羽村先生は、冒頭から狂人の形相。

何かをやらかしてしまったとき、不思議なことに事を起こして初めて「やるべきじゃなかった…」と気づいたりするのですね。

羽村隆夫の覚醒と後悔のスピードは速かった。

狂人→凡人→罪人→狂人→神様→子ども
みたいに表情が変わる真田さん。

最後は、繭にしがみついて甘える子どものような顔で羽村先生、汽車で眠るのです。
繭もまた、聖母マリア様のような風格で、寝姿なのに神々しい母性が満ち溢れてました。

さて新庄先生は、いつでも羽村先生の味方とこれまで見てきたけど、本当に分かり合えたのはこの回だけだったんじゃないのかなと感じました。
ずっと警告役だった。

「そっち行ったらあかんぞ!」
「踏み外すぞ!」

こんなふうに引き止めるのは、でも本当に友情だったのかなぁ。

「高校教師」の中で一番平均的な人間だったのが新庄先生だったのかもなと思えます。
日本人が好きな。
適度に暗い過去があって、嫌われてても貫く教育方針があって、で、素の顔は底抜けに明るくて人情味あふれてて。

そんな人が羽村隆夫のような同僚を前にして、これまでずっと「かくあるべき」で忠告してくれてた。

「まともじゃない」物語の中で、唯一「まとも」な新庄先生の姿は安心できる存在だったけど、羽村先生にとっては救いになって、なかったんじゃないかな。

「普通」が何なのか、普通とは少し違った道を行ってるのかもしれないと思ったとして、普通に戻りなさい、まともであれと温かく声をかけられて、それってどれくらい救いになるかな。

誰かが自分にこんなに温かい言葉をかけてくれてるという思いやりに感動することはあっても、その気遣いに傷ついたりすることもあったかもしれない。
周りをこんなに必死にさせるほど、自分はヤバかったのか…!と。

新庄先生は、少し変わった。
それは教師でなくなったからなのかもしれないけど、「お前はやってない」「逃げろ」と幇助して羽村先生の背中を押したそのとき、初めて羽村先生は救われたような哀しげな表情を見せたんですよね…。
刺してしまった動揺はまだ残ってはいたけども。

互いの小指に赤い糸絡ませながら眠った繭と羽村先生だけど、新潟で、先生のふるさとで一緒に暮らせる!と夢いっぱいで眠りについた繭を置いて、上野駅へこっそり新庄先生に別れを告げにゆく。

もうその顔には死相すら浮かんでて、発言もなかなか怪しい。
金は要りませんとか。
新庄先生に「お前、まさかっ…」と肩をつかまれて、
「そんな勇気、僕にはありません」
と、うっすら微笑むけど、
あぁ、その笑みすら恐ろしく不気味!

でも何かの執着とか現世的なものを断ち切った人は、ああいう表情するのかな…。

本当の友達になれた気がしたと互いに見つめ合うシーンは、男同士でも相当いいものですね。
やっと通じ合えた気がしたその日は、もしかしたら2人にとって最後かもしれない日。
そんな気配を感じた新庄先生ぽつり。
「なんでこんなことになってしもたんやろ…」
ゆっくりと羽村先生。
「紙一重じゃないですか?紙一重でみんな…」
(と、そこで2人を隔てるように電車の扉は閉まる!)
扉で仕切られた2人は、やっぱり「こっち側」と「向こう側」。
住む世界も、もう違うのですね…。

電車って乗るとホームより少し高くなってるから、身長がさほど高くない真田さんでも赤井さんを見下ろす格好になる。
その真田さんの瞳が神様みたいでねぇ…!
処刑に向かいます…さようなら…
あなたの幸せをお祈りします…

そんな表情をにじませる真田さんはやっぱりすごい俳優さん。
最高です…!

私が最終話で一番ぐっときたのは繭の台詞。
「誰がいても、いっぱいいても、先生がいなきゃ1人なのと同じだよ!」

出た、いっぱい!

桜井さんは、お父さんが死ぬ間際の時も、この物語全編においても、泣くシーンであまり涙を見せていなかったように記憶してるけど、この台詞を吐いた時はぼろぼろ泣いてました。
だからいっそう胸に迫ったのです。

お父さんが死ぬ間際、いろいろあった父娘だけど、やっぱり2人の間には誰も理解できないような絆があるらしく、繭はお父さんのこととっても愛おしそう。

でも父親に、
「そんなにあの男が好きか?」
と聞かれて、こっくりうなずく繭にも泣けました。

最終話、実はいくつか謎が残った箇所があったのですが、その一つが、お父さんはなぜ最後にこんなに寛容になったのかなということ。
羽村隆夫に刺されて、2人の愛には負けたよ…と全面降伏したということでしょうか。
それとも、元々どこか異国で死ぬつもりだったから、何かが据わってたのでしょうか…。

あともう一つの謎は、二宮耕介を刺してしまった自分を責める羽村先生に繭が、
「先生は悪くないよ。あたしのためだもの」
と言うのだけど、それに対しての羽村先生の台詞。
「いや、誰のためと言うなら僕のためさ。
君を・・・」

「君を」なんなのだろうな。。

「君を僕のものに…」とか?
それとも、
「君を助けることで僕は…」とか、結構長くなりそうな論理なのかな。

先の「紙一重…」のとこも、??と思ったのですが、こちらはなんとなくわかります。
でも「君」を、一体どうすることが、父親を殺害しようとする動機に繋がったのだろうか。

そして最大の謎、2人は最後どうなったのかと、
あと、羽村先生は1人でどこへ向かおうとしてたのかということ。
これは見た人の想像力に任されているとこかもしれないな。

電車に乗ると、繭が空港へ行く前に急いで先生へ宛てて書いた手紙をゆっくり破り出す羽村先生。
でも、繭との出会いや出来事は忘れようにも忘れられない。
顔洗いに席立ったり気を紛らわせようとするけど、席に戻ればやっぱり、自分が繭を傷つけた言葉の数々も思い返され…。

と、そこで通路の扉が開く!

ぷんぷん怒った桜井さん!!
萌え~

桜井さんの憤慨のお顔は、そりゃもうふるさと連れてってくれるって言ったくせに…とか、1人で行くな、ばーろーとか、相当ご立腹であるというのはわかるのだけど、そこはやっぱ桜井さんの寡黙そうなお人柄とか、繭の孤高さとかがにじみ出てて、あとうっすら、「てんめぇ…」というヤンキー感も私には感じられ、あゝこういう再会シーンで良かったなとつくづく感じました。

真田さんは一瞬「…!」という動揺を見せたものの、すぐまた優しい表情に変わり。
どんな感情がよぎったのかな。。

怒り気味の女性と、それを受け止める優しげな男性。
こんな関係が理想なのかもな…。
そして必ずこのあとコミカルな空気に転じるであろうぎこちないよそよそしさがたまりません。

弁当食べる2人は、もう楽しそう。

その雰囲気は、ロケですっかり打ち解けた真田さんと桜井さんでした(笑)

そして最後の羽村隆夫の独白です。
「僕は今、本当の自分がなんなのか、わかったような気がする。」
「いや、僕だけじゃなく人は皆…」

「人は皆、愛し愛される息吹を感じたい、ただそれだけの無邪気な子供にすぎなかったんだ」
(要約)

電車を降りてローカル線に乗り換える2人はとても寒そう。
日本海がすぐ迫る駅。
青海川駅でしたっけ。
行ってみたい所の一つです。

手に息吹きかけるあのベタな仕草。
「真似すんなよ」
あー最高に楽しそう。
しかし物語の終わりも近い!

汽車では2人、小指に赤い糸結わいて、指を互い違いに絡ませて、ぎゅっ…と、えらく固く握り合ってる。
固く結わくために、繭が蝶々結びの輪っかを口できゅっ…とするシーンの美しさ!
そしてこれまた妙に力強く両手で繭の左腕にすがる羽村先生。

またここで疑問発生。
繭は、固く握った2人の手の上に置いてた右手をそこから離して、右の肘掛けの上に置き直す。
つつーと赤い糸も伸びて。
どうして手を離したのかな。
その糸の強調のため??
最後の脱力シーンの伏線ってだけ?

でも肘掛けに手を置いた繭はとっても威厳がある。
繭のあご下には羽村先生の頭。
マリア様のよう。ってか王様の風格。
美しい。
どうしてこのポーズを2人の完成形としたのかな。

でもこのストーリーの何がよかったって、繭はいよいよのときは年長の羽村先生にすがりつくことはあっても、先生を想う角度は終始斜め上から。
「守ってあげる」
それを男性に言わせたりなんかしないで、
「大丈夫、あたしがいるもん」
と、出会った時からそうしようと心に決めた繭で。
人生のヒント詰まってるなぁ…。

 

そういえば、TBSのドラマっていつでも女性は凛と描かれていたかもしれないと気づきました。

特典映像として収録されていた伊藤一尋プロデューサーのお話によると、野島伸司さんは当時、ドラマのお仕事はほぼフジテレビで、フジとはタッチの違うTBSでドラマをやりたいと思われていたそう。
「ふぞろいの林檎たち」のようなドラマを。

はぁ~あのスピリット入ってましたか!

伊藤プロデューサーは最後にこう漏らしてました。
「高校教師を越えたいんだけどなかなか越えられない。」
「たぶん越えられない。」

伊藤一尋さんが手がけられた作品をチェックしてみたら、好きだったものがたくさんありました。
「オヨビでない奴!」「痛快ロックンロール通り」「うちの子にかぎって…」「パパはニュースキャスター」「ママはアイドル!」

そしてそして!
私が今期一番好きなドラマ
お昼の「花嫁のれん」
これは、脚本は小松江里子さんが手がけられてることは知ってたのですが、
伊藤さんと小松さんは、なんと夫婦!

この奇跡の連鎖には興奮しました。

「高校教師」が私の好きなドラマ第1位から陥落すること、ないかもなと思ったのは、当然といえば当然なのかもしれません。
制作者が「越えられない」と言ってるのだから。
でもムードは全く違ってても、毎日昼に笑えるようなワクワクは受け取ってます!

特典映像のインタビューで真田さんがおっしゃってたことの一部。
「羽村隆夫は社会からはドロップアウトしたかもしれないけど…」

“けど”

ここにいろんなことが詰まってるドラマだったし、私もこのことについていっぱい考えた。

「普通って何だ!普通って!」

奇しくも最後に思い出されたのは、峰岸徹さん演じた繭の父、二宮耕介の台詞。
そして、まさか自分が普通ではない道を歩むなんて、夢にも思ってないような羽村隆夫の表情。

・・・・

あーDVDを買ったとはいえ、最終話を迎えてしまった喪失感はやっぱりあるものですね。

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