先日、是枝裕和監督の映画「怪物」を見てきました。
そしたら最近、「誰も知らない」の配信もされてるというじゃないですか。
ずっとされてなかったのに、怪物上映記念でしょうか。
なのでこちらも視聴。
「怪物」は上映中なのであまり中身に触れないようにして、感想にとどめておきます。
「怪物」
(映画comより)
映画終了後のクレジットで、音楽:坂本龍一氏だったことを思い出しました。
ピアノや金管楽器の音色に何度も涙腺刺激されたけど、友達と一緒だったから我慢してしまった。
是枝作品といえば子どもなんですよね。
監督が描く子どもにやたら泣けてしまう。
でもみんなそういうわけじゃないみたい。
一緒に行った友達からも感動という声は聞かなかったし、「万引き家族」で私が泣いたところも別の友人と共感し合えなかった。
でも今回さすがに美しく描かれすぎかなとは思いつつ。
でも、よくこんな景色ありましたね!と、その美しさと少年とのマッチングにまんまと感動した。
映画見る前になんとなく思ってた安藤サクラの役が想像と違ってて、なんかモワモワというかゾワゾワして落ち着かなかった。
え!こういうこと言っちゃう?坂元裕二脚本だから?ってずっと動揺しながら見てて、でもとあるセリフで自分の心の方向が定まった気がした。
「悪気はない」「よかれと思って」って本当嫌だなと思って。
「お母さんはよかれと思って…!」とか嫌だなぁと。自分にもそういうとこあるし、よかれは避けられないんだけど、それが浮き上がるのは坂元作品だからかな。
この映画はいろんな仕掛けがあって、そういう動揺や戸惑いはもうしょうがないと思う。
わかんないところもいくつかあって、多分いいセリフなんだろうと思っても、そう受け止められなくて、でも田中裕子さんならどっちでもいいと思った。どっちでも受け入れようと。
瑛太ですよ。怖い。
いや、これも仕掛けがあって、あとでいろいろわかるけどどうしても怖くなる悲しさがあった。
そういう人いるよね。
自分もそうかもしれない。
一生懸命になるほど周りが引いていくような。
そんで当たり障りない人が評価されている。
「加減」がわからない人の悲しさかもしれない。
そして男の子たち。
安藤サクラの息子役の子はどこか柳楽くんを彷彿とさせる雰囲気があった。
そんで星川くんはなんと、「ラストマン」の福山さん子ども時代の子と!気づかなかった!
彼らのシーンがたっぷり描かれたのが救いでした。
泣こうと思えばどこでも泣けた。
男の子たちを「わかる」と思う感性は、でも同じ年くらいのあのころの私にはなかったかな。
もうその感性はあのころ随分曇っていた。自分で自分をごまかしていた。
年をとるごとに「わかる」と思えるのは、あのころよりずっと安全圏にいるからと思う。
安全な環境じゃないと、そんな感性に正直になれるはずもない。そんな恐ろしさの中で努めて友好的に過ごしてきたなとつくづく思った。
でもごまかせない子もいて、ごまかしたくない子というか、良く言えばピュアなんだろうけど、学校みたいな場では危険なほど目立ってしまう。
それを脅威と思う側の残酷さもたっぷり描かれる。
そして是枝さん、クリーニング屋好きだなぁ!とも思いました。
「誰も知らない」
(U-NEXTより)
あのころの柳楽くんをやっと見れた!という感動。
なんと!柳楽くんの妹役の女性が「怪物」にも出られてたようで。
どんな残酷な映画だろうと心して臨んだけど、是枝さんは残酷さを描くことを努めて避けたんじゃないかと感じました。
というのは、まず子どもが泣かない。
汚いシーンがほぼない。
なんだかんだ人と触れ合っている。
それにしても「おい、大人!!!」というツッコミが波のように押し寄せますよね。
「大人!このっ…!ここで頼むから!」と懇願したくなる子どもだけの生活。
母親役はYOUで、あの役はYOUしかできないなと感慨深くなりましたよね…
なんというか、これまでも貧困映画いろいろあったでしょうけど、あんなに眉が細くて髪が明るくて声がかすれてて、そういう役作りをしなくてもYOUのままで成立する頼もしさというか。
そんで、YOUが子どもとめちゃコミュニケーション上手で、だめじゃん!とも思った笑
いや、いいのか?
愛に溢れすぎる家族シーン。
じゃあなぜ・・!!!!という切なさでまんまと苦しくなったから、いいのか…
柳楽くんの何がすごいって、焦燥感と罪悪感ですかね。
あとちゃんと子どもなところ。
そりゃこの年だと遊びたいよね…という笑顔の後に駆け足で帰ってくるような。
そんで待ってる弟や妹みんな無表情、みたいなとこ。
柳楽くんが日々どんだけ下の子たちを思って食料調達や金策に走ってるか、誰も知らない。
そのまさに「誰も知らない」というところが時間差でじわじわきて、その後1日ずっと泣いてしまうようなメンタルだった。
是枝さんの作品っていつもそんくらい重いんですよね…
誰も知らない。この残酷さ。
泣き顔や汚さが映らなくても、このタイトルと柳楽くんの奔走だけで胸が詰まる。
外に出れない妹や弟。
柳楽くんのすぐ下の妹の子も相当うまくて、自分の赤い爪の中にしか世界がないような表情。
その下の弟はあんなにふざけBoyだったのに、無表情になっていく。
その下の妹はひときわ目が大きくて、父親はたぶん違うけどそんなことは知らない。
柳楽くんに保護者の責任果たしてほしいみたいな目を向けたりする。
そんで柳楽くんより少しお姉さんの女学生ですよね。
韓英恵さん。
あの子がいる安心感がすごかった。
そんでアパートの大家が串田和美さんなんだから、きっと大事な役なんだろうと思ったら、全然出てこないじゃないか。
おい、大人!!
誰も知らないって本当つらい。
でも柳楽くんは特に何も言わない。
どんなに大変かってことを言わない。
言わなくても救われるだろうと思ってたら、そんな甘くはなかった。
生き延びていく、ということに必死で、そういう人はいつも取り残される。
是枝さんの作品ってそういう人がダイレクトに搾取されるというか、搾取される人を描いてるんだろうけど、救いがない重さはちょっとつらいですよね。
「万引き家族の」救いのないエンディングがまた思い出された。
でもあの重さは誰にどう届くというんだろう…とは思う。
是枝さんの取り上げるテーマにはすごく関心があるのに、観ただけでは自分が何もできた気がしない絶望が残るというか。
音楽はゴンチチ。
ギターがまた沁みました。