私はいまだに「JOKER」の余韻を引きずってるようです。
「JOKER」について検索すると、必ず「タクシードライバー」もヒットする。
オマージュともいえる描写がいくつもあるらしい。
ずいぶん昔に見ましたが、ほとんど覚えてません。
ロバート・デ・ニーロが銃さばきの練習に励んでるとこと、13歳にして娼婦役のジョディ・フォスターのことは記憶にある。
たぶん、20代の頃と今じゃ感じ方が違う。
ましてや「JOKER」を見たあとの今とは。
「JOKER」との共通点
・主人公が日記をつけてる(しかも字が汚い)
・同僚から銃を持った方がいいと勧められる
・まったく女性慣れしてない
・1人リハーサル好き
・こめかみに指の銃を当て「プシュ…」と言う仕草は完全オマージュと思う。
・主人公のイタさ
主人公・トラヴィスのイタさは、JOKER・アーサーのイタさ具合とすごい似てました。
でも2人にどうしようもない愛おしさが湧き上がる。
自分に重ねてるのかもしれません。
「これ、コメディーかな」とちょいちょい思うのもJOKERと似てます。
元海兵隊員のトラヴィス。
1976年の映画で、たぶんベトナム戦争に駆り出された。
私がイタさと感じたのは、軍人生活と戦後のNY生活のギャップによる空虚感かもしれなくて、あの時代の社会問題であるかもしれなかった。
その空虚感から抜け出せない元軍人はたくさんいたらしい。
最近見たホアキン・フェニックス主演の「ザ・マスター」も、元軍人が社会復帰できなくて新興宗教にのめり込みそうになる苦悩の話でした。
このころのデ・ニーロがまた男前で。
(U-NEXTトップページより)
トラヴィスを外見だけで「あら、いいじゃない」と思う女性はこれまでもそれなりにいたんだと思う。
とあるオフィスの「いい女」に心奪われたトラヴィスは、結構強気に女性を誘い、好意を伝え、女性をうっとりさせることはできる。
自分の都合いいように会話できるうちはよかった。
選挙事務所で働く女性=ベッツィに「誰を支持してるの?」と聞かれると、「…政治に興味ないんだ」とお茶を濁す。
「あなたってあの曲の歌詞みたい」と言われても、その歌手自体知らない。
歌詞の内容は「矛盾」…
外見まぁまぁいいし情熱的だけど、中身うす…
トラヴィスと「会話」となるとなんか成立しないけど…?
ベッツィはうっすら気付くけど、「映画に行こう」というトラヴィスの誘いに、「どんな映画に誘ってくれるのかしら♪」ってロマンチックな夢見たんでしょうね。
しかし!!
トラヴィスが連れていった映画がポルノ。
なんでだって!!
ベッツィがためらっても「あっ、そだよね…ごめんね」とかならない。
複数プレイが映し出されてもトラヴィスに気まずさゼロ。
ベッツィは猛烈な嫌悪感で「もう帰る」(そりゃそうだ)
「え?待って待って!」トラヴィスはベッツィにあの歌手のレコードをプレゼントするけど、「いらない」と言われる。
「持ってるから」←でしょーね!!
持ってるからその歌詞の話ができるのに、「あなたが聴けば」と突き返されると、「プレーヤー壊れてて…」とトラヴィス。聴く気もないのバレバレ。
これはベッツィにとって決定打でした。もう電話に出ることもなかった。トラヴィスは、「こうしたら女は喜ぶんだろ?」という輪郭しか知らないように見えた。深めるということが苦手。だからタクシードライバーを選んだのかもだけど。
それに戦争行ってたから政治もカルチャーも何も知らないのかな。そう思うと悲壮感が一層感じられます。
女性に振られたことでトラヴィスの復讐心に火がつくところもアーサーに似てる。
「この女もまた俺から離れていった」
つぶやくトラヴィス。
「この女も」ということは何回か同じ経験してるということで、やっぱりポルノ映画に連れてったのだろうか。
デートにポルノ…絶対NGですよね…。
ポルノを見てるトラヴィスは、男として高揚してるようには確かに見えなかった。
「あたしを抱いてと言わせたかった!?」というベッツィのキレにもピンと来てない様子。
カルチャーも政治も何も語れるものがないトラヴィスが夢中になれるのがポルノ。
戦地から戻って理屈抜きに安らぎを感じたカルチャーだったのかな。
電話に出なくなったベッツィの選挙事務所に押しかけ、同僚の男性に制止されたら余計腹立って、攻撃的な脅し文句を吐き捨てるトラヴィス。
その勢いで銃を何丁も買う。
銃を入れるためのグッズも購入。
そんで部屋で銃さばきのひたすら練習、あの名シーンです。
筋トレまでして、復讐心は結構本気っぽい。
さすが元軍人だけあって、グッズの加工とかいろいろ器用なのです。
空虚だった気持ちがみるみる満たされていく、そのデ・ニーロの変化がすごかった。
どんどん男前になっていく。
締まった体、「俺は銃を持っている」「計画があるんだ」と目標を見つけたトラヴィスは、異様な輝きを放つ。皮肉な話です。結局、軍人時代のメンタルに舞い戻ったような。組織の中で命令に従ってた時はそれなりに輝けてたのかもしれないけど。
12歳で娼婦をやってるアイリス(ジョディ・フォスター)を表向き「買った」トラヴィスは、アイリスからベルトを外されても「こんなことはやめるんだ」と教師のような説得。
「でもあたしはべつに…」と現状を変える気もないアイリスだったけど、「じゃあお兄さん、一緒にコミューンに参加しない?」と誘われたトラヴィスは、「俺はそういうのは…」と拒否。ほらまた…
コミューンって、ちょっと宗教っぽい自然派コミュニティーなんでしょうか。
物質至上主義の世の中に批判的な確固たる思想のもと、のびのび田舎で自給自足みたいな?
わかんないけど、トラヴィスにはだって思想がないから、アイリスのお誘いにもピンとこなかったんだと思う。
でもアイリスは2、3回誘ったんですよ。「お兄さん、一緒に行こうよ」と。
アイリスの方が社会をよく感じてて、トラヴィスよりずっと成熟してたのかもしれない。
いや、俺には「目的」があるからね。銃を使う目的。
コミューン参加してる場合じゃない。
マウント自己実現の絶好の機会。
アイリスは元締めに親のような信頼感を抱いてるのに、トラヴィスは「そいつから引き離してあげる」という使命感で胸を膨らませる。
本来の銃の目的。
ベッツィが支援している大統領候補、その集会をめちゃめちゃにすること。
この集会に足を踏み入れたトラヴィスのいでたちが…
私服はシャツにジャケット派だったトラヴィスは、アーミー系に路線転換(わかりやすい)
しかもハードモヒカン…!!!
ここ笑っちゃったし、もうイタタタタ…目立つっつうの。
演説中の大統領候補に近づくトラヴィス。
SPにすぐ危険人物と見なされる。いや、目立つからね。
しかも前回の集会でSPに「君もSP研修どうだい?」と誘われたら舞い上がって資料請求してた(自分の住所しゃべっちゃう)
バカというか純粋というか。
いや、SPが巧妙すぎる。もうこの時点でトラヴィスは怪しかったんだろうな。
計画が本気なら目立たないこと優先させると思うんだけど…「やってやるぜ!」をまず外見で表明しちゃったトラヴィスよ…。
でも心が病んでたという見方もあるようです。
ベトナム戦争での体験のつらさと諸々の空回りとつなげることもできそうで。
何よりずっと「居場所」「生きがい」を見つけてた。
タクシーの運転手として街をあちこち流してても、それは一向に見つからなかった。
目に飛び込むのは歓楽街の堕落や汚らしさだけ。
何よりトラヴィスは、自分をアップデートするなんてこと考えられないみたい。
手っ取り早い自己実現がマウンティング。
そう、今でこそマウント取るとかいうけれど、あのころから自分探しとマウンティングが危なげに結びつく若者の問題ってあったのかな。
トラヴィスがマウント取った感覚のときだけやたら輝いてた。
俺はこの銃で世の中の汚れを吹っ飛ばすと目標定まった日から、仕事スタイルも誰かとの会話にも常識がみなぎって、何よりアイリスを買ったときの交渉人に「警察じゃないよね?」と疑われてたのは、妙な潔癖さが溢れてたからかも。狂気にも近いような。やっぱりトラヴィスはなんだかんだ軍人メンタルなのだろうか。
選挙集会での発砲が失敗した分、アイリス界隈の人間を全滅させたトラヴィス。
計画の最後は本当は自殺だったけど弾はもう残ってない。
なんと…
トラヴィスはちょっとしたヒーローになってしまったんだな。
アイリスは親元に戻り、まともな学校生活を送るように。
両親はトラヴィスにむしろ感謝感謝、それがマスコミによって美談にされた。
この歪んだ崇められ方もJOKERっぽいといえばそうなのかもです。
トラヴィスも首に銃弾受けたけど、今じゃその傷跡はちょっとしたハクになった。
自分がいるべき場所にいられてる実感を持ったような顔でタクシーを発進させる。
最初から最後まで空虚だったトラヴィス。
でも今もそれって同じかも。
自己実現してるように目に飛び込むあの人もあの人も、空虚なメディアに利用された(利用した)空虚な人間なのかも。
ハクだけで人の上に立ったような顔は多くの人の夢を揺さぶる。
「自分はこんなとこにいる人間じゃないのかも」
そんでオンラインサロンとかに大量のお金つぎ込むのかな。
…いや、タクシードライバーの見方ってそういうんじゃないか。
でも悲しかった。
トラヴィスの満足感は、そう遠くないうちに枯渇するのだとも思うけど、どうだろう。
「アイリスを助けたんだ」と思い込めればそれだけで一生暮らせるだろうかな。
でもなんか、「気づいちゃう」ナイーブさはちゃんとあるようなトラヴィスと思った。
前以上に苦しんで、そこからが本当の人生かもしれない。何者にもなろうとしないタクシードライバーとして生き続けるんだっていいはずなんだ。SP目指せばいいんじゃないかな?もうダメか…。
それにしたって誰も自分に優しくない。
優しかったのは、「JOKER」でアーサーに寄り添ったソフィーだけ。
アーサーの妄想上の女。
優しさなんてどこにもないじゃないか。そんなことも浮き彫りになる映画でした。
デ・ニーロは太陽獅子座で、獅子座持ちってやっぱイタい表現が素晴らしい。
しかも金星乙女だった。完璧です!
ほかのデ・ニーロ作品も見たくなりました。
若いデ・ニーロといえば「ゴッドファーザーⅡ」で、マーロン・ブランドの若かりし頃を素敵に演じてましたね。
マーティン・スコセッシ監督と何作も組んでるみたい、そんなことはよく知られてることでしょうけどなんせ疎くて。
「愛の不時着」もあと2話なので、見終わったら映画シフトしようと思います。