松尾スズキ作ミュージカル「フリムンシスターズ」を見に行ってきました。
(写真はステージナタリーより)
「シスターズ」とは長澤まさみさん・秋山菜津子さん・そしてゲイ役の阿部サダヲさんのこと。
「フリムン」とは沖縄の方言で「気がふれる」とか、頭おかしいというような意味だそうです。
長澤さん演じる主人公・ちひろは沖縄出身。
長澤さんは全編沖縄のイントネーションで、ユタによって脳内に祖先を投入された(?)不思議系無気力なコンビニ店員役です。要素が盛りだくさん。
秋山さん演じるみつ子と、阿部さん演じるヒデヨシは劇団員仲間として古くからの付き合い。
大女優にまでなったみつ子の転落人生を支えるヒデヨシは、なんだかんだみつ子に金をたかって生きている。
ヒデヨシも過去、新宿二丁目から追放されたという傷を持つ。
無気力なちひろは、みつ子が過去に主演したドラマを見てるときだけが楽しい時間。
あるときちひろのコンビニをみつ子が訪れ、「ファンなんです!」というちひろの告白と同時に事件が起き、3人は結束を強めていく…。
舞台全体の感想としては、「すごかった」「すごい」
舞台って本当にすごいものを見たとき、このワードしか思い浮かばないものです。
何がすごいってまず、これを作った松尾スズキさんがすごい。
だって歌詞とかセリフとか、数々のグッとくる言葉。
LGBTやいろんなマイノリティーに触れた物語でもあり、時代が抱える暗さや複雑さまでわかりやすく描かれてる。
この「わかりやすく」というのは今回の特徴と思います。
松尾さんの舞台はいつも正直難しく、「キレイ」も結局感想を書けずじまいでした。
阿部さんも秋山さんも、そしてストーリーテラーである皆川猿時さんもすごい。
池津さんも猫背さんも村杉さんも、若手の篠原さんなど大人計画メンバーのインパクトもとにかくすごかったし、笠松さんという方の歌声、オクイシュージさん、みんなすごいです。感動しました。おもしろかった。
こんな陳腐なことしか言えません。そして栗原類さん、輝いてました…。
なんたって長澤まさみさんです。
いやぁ…めちゃ可愛いですね…。
なんというか感動しました。
長澤さんにこういう役が当てられることをずっと待っていた。
「ドラゴン桜」以降ずっと待ってたのですよ。
超普通っ子の役。普通以下の役。汚れ役。
でも深刻すぎない。そこもまた普通っ子。
「うちはずっと奴隷さー。うちの中には芯がない。芯がないと奴隷になるんさー」
・・セリフはうろ覚えですが、こんな無気力ワードを連発。
この水色のワンピースに緑のバッグ、赤いアクセントがすごい可愛かったです。
長澤さんはそりゃ美人です。
だからいろんな役を演じてもらいたいと多くの関係者に思われるはずで。
でもどんな役者さんにも合う役・合わない役ってあると思うのです。
長澤さんはどんな役を演じても称えられる方。
でも私はどこか不満を抱いてた。もっと長澤さんが輝く役があるはずと。
・・長澤さんはTVという枠にとっくに収まりきらなかった方かもしれません。
長澤さんはバラエティーなどで年々、「普通」アピールを強めてるという珍しい方に思える。
ま、最近の女優さんは「別に普通です」って言う傾向があるけど、なのに巨大クローゼットの写真とか、超凝ってる手料理、3匹ぐらいのわちゃわちゃした犬や派手な交友関係、そこに「普通」を設定されたら自分はドブかな?みたいに思うことはよくあるけれど、長澤さんが「おしゃれイズム」で見せてた写真は極力情報減らしたような質素なものでした。
舞台に出ると俳優って変わるんだと思う。
普通・普通以下方面に変わっていくんじゃないのかなと。
舞台を観に行く人との間には、どこか木綿の糸でつながってる感覚があります。
その糸には、TVでやらないようなことがびっちり書いてある。
それをわざわざ読みたいと思う人しか舞台を観に来ないでしょうね。
舞台俳優というのはその糸に書かれてることがびっちり頭に入ってて体にも染み付いてて体現してくれる人。
舞台ってマイノリティーの空間です。
TVドラマを見てても舞台俳優の方には言いようのない安定感があって、もちろん「上手い」ということがありますが、「地続き」と感じられるリアルな表現が上手いということなんでしょうね。
「演じる」という華やかな世界にいても、勤め人というとこでは自分と一緒という地道さにあふれる舞台人。
長澤まさみさんの演じたちひろは、不思議系無気力でコンビニ店長と15分でコトを済ます女だけど、「わかる」となぜか思えた。それがなんか嬉しかったんですよね。境遇やキャラが自分と違ってても心を寄せられる。
松尾さんがこういう役を当てたということに感動したというか。
でもなんで普通っぽさがハマったかというと、長澤さんのコミカルな間とかも完璧だったからと思う。
いい子的な普通感じゃなくて、え??って即ツッコみたくなるダメさ。フリムン度合いが超魅力だったんだと思う。あんなに美しい人がそう演じるということの感動。長澤さんは自分と同じものを抱いてる(はず)。それを爆発させてくれたんじゃないかって。
松尾さんは長澤さんに「普通」を込めたのかな。それが別に普通じゃんという真っ当さ。
でも今、普通も真っ当もコロナでよくわからなくなった。
PCR検査をみんな受けれた方がいいじゃんという意見が普通なのか、みんな受けるとかバカ言ってる…と思うのが普通か。
LGBTデモを容認・応援するのが普通なのか、無関心が普通なのか。攻撃が普通?まさかね。
奴隷のような働き方、奴隷みたいに雇用する側。
全部全部の中間にいたとしても、なぜかそれぞれの溝が深い。
わかり合いたいような・わかり合いたくないような、どっちにいれば正解で幸福か、何を観てれば自分肯定できるのか、とんとわからなくなった2020年ですよ…。
松尾さんはその混沌を描いたのだろうかな。
松尾さんの舞台をそんなに多く観てるわけじゃないですが、いつもいや〜な気持ちになります。
自分の視点や感情が合ってるのかわからなくて、目を背けたくなる。
うわ、シュール…と思うことが多くて、え、なんか笑えない、とか。
でも今回のフリムンは最終的なメッセージ性が際立ってたと思う。
「自由を奪うやつには怒っていいんだ」
今、「怒る」ってことすら正解??って場面があまりにも多いから。
でも舞台を観に来るような人はみんな怒りたい人だし怒れるんだと思う。
結局そこじゃんというシンプルさに行き着くような。
長澤さん演じるちひろは、奴隷に甘んじてるうちは怒ることもしなかった。
私はバイト情報見るたびに奴隷の覚悟で申込みボタン押そうとして…やっぱ無理ですね。
でも怒れない人はどんどん吸い込まれて行くと思いますよ。奴隷世界へ。
長澤さんはドブ世界の奴隷を見事に体現してくれた。
でも「目的」を持ってからガラッと変わるのです。
「責任取る」ってことが嬉しいちひろ。責任を取ることが目的。
責任取るくらいなら奴隷でいいやって人が案外多いですからね。
そもそも奴隷しか選択肢がない・生きれるなら甘んじる…という人もコロナで増えたのかな。
ちひろもそんな女だったけど、「責任」という最悪の中に自分をアジャストしてからの「生」への加速がまぶしかった。
あんなに美しい人と自分を重ねられる喜びの3時間半でしたよ!
長澤さんは身長が高いんですね(wikiだと168cm)
なんとなくの猫背と、腕の長さからのキレ、動きの華やかさも素敵だったなぁ〜。
松尾さん、阿部さん、本当にお疲れ様でした…素晴らしかったです…と心から思いました。